米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は先月、FRBが進めてきた米国の中央銀行に当たる連邦準備制度(Fed)の保有資産の縮小について、年内の停止に言及しました。これまでFedは政策金利の引き下げや中央銀行が市場から資産を買い上げることで資金供給を行う量的緩和政策を見直し、政策金利の引き上げに加え、保有資産を縮小させて量的緩和政策からの脱却を進めていました。
冒頭のパウエル議長の発言の背景には、昨年末の株安や米中貿易摩擦の影響で景気の先行きに不透明感が出てきたことから、景気を冷やす保有資産の縮小を進めてよいのか、ということがあるのかもしれません。また、欧州の中央銀行であるECBは昨年末に量的緩和の終了を発表しましたが、今月初旬の理事会で年内の利上げを断念し、さらに新たな資金供給策の導入を発表しました。
図はFed、日銀、ECBの保有資産を円換算して時系列で比較したものです。
本稿執筆時点でFedが約443兆円、日銀が約564兆円、ECBが約593兆円、合計約1,600兆円という規模です。なお、FedとECBの資産額は上下に振れていますが、これは日本円に換算して評価していることによる、為替レートの変動によるものです。前年同月末から比較するとFedは24兆円減、日銀は38兆円増、ECBは1兆円減となっています。 ECBの保有資産はユーロベースでは増加していますが、円ベースでは円高ユーロ安により減少しています。Fedは円ベースだけでなく米ドルベースでも保有資産が縮小しています。
一般に中央銀行による資産買い入れ、いわゆる量的緩和政策は株式相場においては買いの材料と言えます。図には日経平均株価の推移を黄色の線で載せていますが、株価が歴史的な高水準にあるのは量的緩和政策のおかげと言えそうです。筆者の分析では、日米欧の中央銀行の資産合計額が小さいと日経平均株価の水準は低く、資産合計額が大きいと日経平均株価の水準が高くなるという関係性が見られます。
昨年10月から日経平均株価が高値を更新しなくなったのは、量的緩和が終了し、資産額が増えなくなったことが影響しているものと考えられます。Fedは保有資産の縮小を停止するとのことですが、保有資産を積極的に増やすとは言えず、むしろ年内は保有資産の縮小は進むとみられ、ECBも新たな資金供給策は大規模なものにはならないと見られます。
日米欧の中央銀行で唯一緩和継続スタンスを継続しているのは日銀ですが、これ以上の金利低下は金融機関へのダメージが大きいこと、ETF買いなどの資産購入にも批判的な意見が出ていることから、大規模な追加緩和策を実行するのは難しいでしょう。全体としては中央銀行の保有資産は横ばい傾向が続くことが想定され、株価の上値が重い展開は続くものと予想されます。
(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。