デザインの話題「リンゴと刀」



Appleのノートパソコンには上面にリンゴのマークが付いていますね。実はあのマーク、昔は今とは逆さまに付いていたのをご存知でしたか?

今のマークの向きではノートパソコンを開こうとする使用者には逆さまとなり、開けづらい印象を持ちます。しかし周囲の人からするとマークは正しく見えて整然としています。

これについてAppleは「逆さまの状態でノートパソコンを開けるのは数秒間だけだが、周囲の人が逆さまになったマークを見るのは継続的である」と言っており、使用シーンにおける問題解決の結果としています。

私はこの話しを聞いたとき「太刀と刀の違い」を思い出しました。違いが分かりづらい太刀と刀ですが、太刀とは平安時代後期から室町時代初期のもので馬上で安全に抜けるよう刃を下にして左腰に携えられていました。一方、刀は室町時代中期以降のもので歩行中にすぐに抜刀できるよう刃を上にして左腰に携えられていました。

この太刀と刀、茎部に製作者や製作日など刀工銘が刻まれますが、それぞれが使用シーンにおいて表になる方に刻まれています。太刀であれば刃を下にして左腰に添えたときに見える方が表であり、つまりは刀とは反対側に刻まれることになります。

リンゴマークと刀工銘の話しはどちらも「使用シーン」を重視したものです。どちらも製品の性能に影響はありません、刀工銘にいたっては柄で隠れて見えなくなってしまいます。しかし私はこういったデザイナーが徹底して使用シーンに寄り添い精緻にこだわることが強靭なブランドや伝統を築いていくのだと思っています。

※写真は重要無形文化財保持者であった大隅俊平刀匠の作業場(太田市立 大隅俊平美術館)

(Betonacox Design)