20の島に70の橋が架けられた運河の街。童話「青い鳥」の作者メーテルリンクの故郷。そして、ブルージュと並んで中世には毛織物工業で繁栄を築いた栄光の街ベルギーのゲント。
数々の形容詞に彩られるゲントは、ベルギーの首都ブリュッセルから急行で約35分の距離にある中世に花開いた街として知られます。街角の各所にその輝かしい歴史の足跡が残り、訪れる人たちの目を楽しませ、また、北方ルネサンスの発祥の地としても名を馳せるゲント。街は著名な芸術家を輩出したばかりではなく、芸術的遺産も数多く点在し、世界各国から訪れる旅人を魅了し続けています。
アントワープに次ぐベルギー第3の都市ゲントは、花の栽培でもその名を知られ、5年に1度「ヘント・フロラリア」という花の祭典を開くことで花の都市という異名を持ちます。 その他、7世紀には既に2つの修道院があったことが知られますが、9世紀には「カール大帝伝」の著者として知られるアインハルトが、この町の修道院長に任命されたという、格式高い修道院の街でも知られます。
現在もゲント・ダンポルト駅の東にある大ペギン会修道院(Groot Begijnhof)旧市街の南東に建つ小ペギン会修道院(Klein Begijnhof)、そして、町の西に建つ聖エリザベート・ペギン会修道院(Oud-Begijnhof Sint-Elisabeth)の3軒が女性のみによるクリスチャンの修道会が創建時のままに建ち、趣きある景観を見せています。
そのなかでも旧市街の閑静な住宅街の中にあるベギン会小修道院は、現在でも多くの修道女たちが生活していることで、修道女の生活の様子をうかがえることから人気が高い修道院で知られます。なお、ゲントを含めたフランドル地方のベギン会修道院は、合計13件世界遺産として登録されています。
いずれの町でも町の中心地にある修道院ですが、そこは都会の喧騒の中に在りながら、修道女の慎ましい日常生活が営まれ、創建時の中世の面影を色濃く残す空間として知られ、いずれの街のベギン会修道院もベルギーの伝統的なレース編みや刺繍などの作業も行われているのも特徴です。
ベギン会修道院の元となるベギン会は、1245年にフランドル伯爵夫人マーガレットにより女性のみによるクリスチャンの集まりを提唱され、その結果、修道僧の修道院に匹敵するベギン会修道院が設立されたと記録されています。修道会では独自の神秘主義思想と質素な生活を営むことを前提とし、厳しい規律は無に等しく、財産の保有や職業の選択もできる女性の自立を目的とした教えを特徴としました。
多くのベギン会修道院は敷地内には中庭を中心にして建物が点在し、礼拝堂、食堂、各部屋、仕事場などが設けられ、院の中に入れば誰もが修道女たちの営みを垣間見ることができるようになっています。ゲントを訪れましたらベギン会修道院に足を運び、中世へのタイムスリップの旅を楽しんで下さいませ。
9世紀から18世紀にかけてフランドル伯が支配した街には、修道院の他、歴史的建造物として居城が保存されていますが、運河沿いに建つ居城はかつて中世には織布業の中心として繁栄した興隆期の面影を色濃く残し、かつての栄光を称えるかのように凛とした姿で建っています。
運河沿いのパステルカラーで彩られた愛らしい家並みに心奪われる旅人もいます。同じ運河の街ブルージュのように光り輝く街並みとは異なり、いぶし銀のように重みのある格調高い光に包まれたその様に感動する人も、また、中世の栄華の時の流れの中に案内する運河沿いの風の中に身を託す人もいます。そして、町が誇る芸術家たちの足跡を訪ねる旅行者も数多いのです。多彩な宝物が点在するベルギーの古都ゲントの魅力は尽きません。
画像は中世初期から建つ運河沿いの歴史的建造物。運河から古都を楽しむボートクルーズも出ています。
《註:文中の歴史や年代などは各街の観光局サイト、取材時に入手したその他の資料、ウィキペディアなど参考にさせて頂いています》
(トラベルライター、作家 市川 昭子)