トランプ米大統領が日本を名指しで円安誘導していると批判したことから、日本も為替操作国に認定されてしまうのでは、という懸念が生じてきました。また、トランプ大統領が米国の貿易赤字について言及していることから、10日に予定されている日米首脳会談において1985年のプラザ合意の再現があるのでは、という声も聞かれます。
プラザ合意とはレーガン政権化にあった米国が、貿易赤字を是正するため、当時、米国、英国、西ドイツ、フランス、日本で為替相場に協調介入し、為替レートをドル安に誘導することに合意したことを言います。プラザ合意までの米ドル対円相場は1ドル230円前後でしたが、プラザ合意後に急速に円高が対ドルで進行し、1985年末には200円台前後、1986年末には160円台、1987年末には120円台となりました。
現在の米ドル対円相場は、1980年代前半の1ドル200円を超えていた時代に比べれは相当な円高水準ですし、長期的に見れば円高傾向にあるので、トランプ大統領によるプラザ合意の再現はさすがにないのではないか、とも思えます。しかしながら、実質実効為替レートで見れば絶対にないとは言えないかもしれません。
実効為替レートとは特定の2通貨間の為替レートではなく、多くの通貨に対して円高なのか、円安なのかを見ることができるもので、さらに「実質」と言う場合には物価変動も考慮されます。すなわち、名目の為替レートに変動がない場合において、日本の物価が低下して海外の物価が上昇した場合には、海外製品が割高になって日本製品が割安になりますので、名目の為替レートが円安に振れた場合と同じように考えることができます。このとき、実質為替レートは低下します。まとめると、実質実効為替レートとは多くの通貨に対して、物価の変動を考慮した為替レートで、上昇すれば円高、低下すれば円安に振れた場合と同じように考えることができます。
図は名目上の為替レートである米ドル対円相場と実質実効為替レートの推移を見たものですが、実質実効為替レートは名目上の為替レートと比較しやすいように上下反転しています。名目上の為替レートはプラザ合意以降は長期的な円高傾向がつづいており、いまだに当時の為替レートに対して大幅な円高水準です。一方で、実質実効為替レートはプラザ合意以前の水準を超えてきています。これは日本の物価が海外に比べて上昇しない時期が長かったことが原因の一つとして考えられますが、実質実効為替レートで見れば、日本は円安による価格競争力による恩恵を受けてきたと言えます。もし、トランプ大統領がこの点に気づいているとすると、「日本は過度な円安をもって輸出攻勢をかけてきた。米国の雇用が奪われたのはそのためだ!」と言う可能性もゼロではないかもしれません。10日の日米首脳会談で為替相場について言及があるのか注目したいところです。
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(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。