今月4日の日本経済新聞ネット記事と同5日日本経済新聞ネット記事では、政府の地球温暖化対策の基本方針を示す「地球温暖化対策計画」の原案について報じている。
それぞれの記事では、主要国・地域の温暖化ガス削減目標(資料1)と、日本国内の2030年までの温暖化ガス削減目標(資料2)に関する簡潔な図表が掲載されている。これらは、とてもわかりやすい。
<資料1>
(出所:2016.3.4 日本経済新聞夕刊)
<資料2>
(出所:2016.3.5 日本経済新聞朝刊)
内外ともに、威勢の良い内容ではある。
しかし、世界的に今のような経済社会情勢が続くと仮定すると、どの国の目標も実現すると信じている専門家はいないであろう。もし信じている専門家がいるとしたら、それは別の意味での専門家だ。
こうした目標は、作れば作るほど、嘘っぽく成長していくのは常なること。
このような夢想的な目標の設定ではなく、効能を実際に伴う施策を履行していく方がよほど効果的。それはやはり、化石燃料の高効率化技術の利用、原子力発電の高稼働率稼働、再生可能エネルギーの低コスト普及などの推進であろう。
5日の記事は、とてもバランスのある書き方になっている。上記のような削減目標を単に報じるだけでなく、次のように懸念点をしっかり記している。
・家庭部門からの温暖化ガス排出は2割を占めるが、法的規制は難しい。政府は省エネ製品を選ぶように呼びかけるが、目標達成は容易でない。
・中長期目標達成には家庭や企業の削減努力だけでは足りない。原案では国内の温暖化ガス排出量の4割を占める発電部門の対策として、原発再稼働や再エネ最大限導入を唱える。
・原発再稼働は今後どのぐらい進むか不透明。原発は運転期間を原則40年に限る規制を政府が導入しており、新増設や運転延長の議論が不可欠。
・再エネは電力供給が安定せず、電気料金が高くなる難点も。
これらの懸念点のうち、家庭部門に係るものは商品・サービスの供給側が相応の商品・サービスを提供していくことで進めるしかない。原子力や再エネについては、政治判断でどうにでもなることなので、政治が動けば物事も動く。
こうした超長期目標は、それに向かって諸々の施策をゆっくりと行うための基盤にはなる。しかし、日本のような温暖化ガス排出『小国』だけがどんなに削減努力をしても、所詮は徒労に終わる。
世界全体の温暖化ガス排出量のうち、米・中・印が世界の約半分を排出するようになる見通し。また、今後の温暖化ガス排出量は、先進国では微増なのに対して、途上国では急増するとも見込まれている。
だから、温暖化ガス排出「大国」である中・米・印・途上国が率先していかないと、どうしようも無い。それは、世界のエネルギー起源CO2排出量の推移(資料3)を見れば一目瞭然。
<資料3>
(出所:2015.1.23 環境省「温室効果ガス排出量の現状等について」)
上記2つの記事は国内目標の話。これに関係する政府担当部署にとっては、成否にかかわらず、温暖化ガス削減は半永久的な業務となる。
それに付随して、温暖化ガス削減目標に係る大きな利権は更に大きくなる可能性がある。それによって、温暖化ガス削減のための技術や商品・サービスの拡充も同時に期待されている。利権化することは、聞こえは快くないかもしれないが、大きな原動力・推進力にはなる。
(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。