カナリアは有毒ガスに敏感で炭鉱などにおいてはガス発生検知のために使われたことから、危険を知らせるものの代名詞として「炭鉱のカナリア(canary in the coal mine)」と言うことがあります。株式市場においても各種指標が「炭鉱のカナリア」となって危機を知らせているという論調も欧米の金融メディアなどで目立ってきたように感じます。指標の例としてはプット・コールレシオやVIX指数などが挙げられますが、高利回り社債として日本からも投資信託を通じて投資されているハイ・イールド債券の利回りも「炭鉱のカナリア」の1つといえます。ちなみにカナリアは普段はよく鳴いていますが有毒ガスを検知すると鳴かなくなるらしいです。
企業は資金調達の手段の一つとして、社債を発行して投資家から資金を調達して利息をつけて返還することがあります。発行する企業の信用力が高いほど買いたい人が集まるので利回りは低くなり、支払い能力があやしくなるほど人気はなくなるので、利回りは高くなるのが一般的です。ハイ・イールド債券は社債の中でも投資に適さないとされるものですが、その代わり利回りが相対的に高くなっており、利払いがなされないリスクを承知の上で購入する投資家もいます。景気悪化などで資金繰りが厳しくなると、信用力の低い企業が発行するハイ・イールド債券は利払い懸念から売られやすくなりますので(その分さらに利回りは高くなります)、信用力の指標となる格付けが低いハイ・イールド債券は「炭鉱のカナリア」として危険察知に使えそうです。
図は米国のハイ・イールド債券のうち、投資非適格とされる格付けCCCの債券で構成される指数の利回りです。グレーのS&P500指数と比較していますが、株価下落時には利回りが高まっていることに注目です。株価が低迷している時期はたいてい景気が悪く企業の資金繰りも悪化するのでハイ・イールド債券を欲しがる投資家は減り、利回りは高くなるというのが背景です。直近の株価は堅調ですが、CCC格のハイ・イールド債券の利回りは上昇傾向にあります。10月末で16%を超えており、これはリーマンショックの直前、7年ほど前の2008年8月を越える水準までに上昇しています。実際に株価急落が起こるとハイ・イールドの利回りはさらに急騰しますが、急騰してからでは遅いのです。
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世界的な金融緩和による金余りで、株式から不動産や美術品まで何でも買われる流れのなかで、投資非適格とされるハイ・イールド債券も買われてきました。しかし、その流れは終わるかもしれません。特に今月実施されると見られる米国の利上げがきっかけになる可能性は高いと考えられます。金利上昇は企業にとって調達コストの上昇につながり、資金繰りが厳しい企業は破綻や株価急落の可能性が高まるでしょう。ハイ・イールド債券市場に見られる「炭鉱のカナリア」は7年ぶりに鳴くのをやめました。これから株式市場に入ろうとする方は、どの水準で利食いや損切りをするのか、リスク管理の方針をしっかり考えてから相場に臨むことをおすすめします。
(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。