デザインの話題「鐔(つば)のデザイン」



昨年、世界的に有名なオーストラリア人デザイナーのマーク・ニューソンが日本刀をデザインし話題となっていた。その名は“aikuchi”であり、鐔を持たない日本刀“合口”を指している。日本刀は武器として生まれたが、時代の変化とともにその形を進化させ、平和の時代を迎えたとき、日本刀は身を守るための鐔という機能を喪失した。そして刀の価値は“お守り”という価値に進化し、合口として現代へと継承されてきた。マーク・ニューソンはそんな鐔のない意味に共感したと言われているが、実はそんな鐔自身のデザインも非常に興味深いものがある。戦国時代以前に製造されたものも含めて多くの鐔が現存しており、中には非常に美しく、刀なく鐔だけで芸術作品といえるものもある。

■ 源平合戦宇治川図鐔
https://www.google.co.jp/search?q=源平合戦宇治川図鐔&tbm=isch

室町時代から権力者に仕えた後藤栄乗の作品。宇治川の合戦を室町時代らしく華美に仕上げられている。金の配分が絶妙であり、その武具や馬の毛並みと松の反復が統一感を生み出し、鐔全体で美しさを構成している。

■ 曳牛図鐔
http://www.choshuya.co.jp/tsuba/21_40/40yasuchika.htm

江戸時代に活躍した土屋安親の作品。安親は様々な題材を扱い多くの世界観を具象化している。この鐔では農村の風景を見聞きして写し込んでいる。間の取り方が実にうまく農村を表現している。

これら鐔の精密な細工は日本だけでなく海外でも芸術として評価されており、イギリスの金工家Ford Hallam氏は自らの手で当時の製造プロセスを再現している動画をYouTubeにアップロードしている。最後に美しい鐔が完成したときには感動に近いものを覚えた。

https://youtu.be/wGMj7o6AwnM

https://youtu.be/pM0VnL30rDc

平和の象徴として減っていった鐔を敢えて振り返ることで素晴らしいデザインに触れることができた。そう考えると近年の主流となってきるマイナスのデザインによって排されそぎ落とされた何かを改めて見つめ直すことで新しい発見があるのかもしれない。

(Betonacox Design)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。