「休眠預金 毎年850億円」の使い道は・・・?


「休眠預金」とは、長い間出し入れがない預金のこと。休眠期間が10年以上の休眠預金は毎年約850億円で、預金者からの返還請求で払い戻された残りは約500億円。これは、税引き後に金融機関の利益として計上される。

もうかる仕事は放っておいても民間がこぞって行う。だが、もうからない仕事は政府や自治体が資金を出さないとなかなか進まない。だから、子育て・保育などの児童福祉、介護などの高齢者福祉、障害者福祉といった「社会的分野」に関する仕事は、公的な支援策がなければ民間からの資金調達は期待できない。

近年、福祉などの「社会的分野」に関する問題解決と収益確保の両立を図る新しい投資の在り方が、世界的に注目を集めている。それは、「社会的インパクト投資」と呼ばれる。これを進める上での問題は、財源をいかに確保するか、である。諸外国では、まさに休眠預金をうまく活用する事例が出てきつつある。

英国や韓国、アイルランドでは、社会福祉や雇用の分野での慈善事業、社会的企業の支援に充てられている。以下は、英国の例。

英国では、2011年から休眠預金の活用が始められた。08年に休眠口座検索システムが開設され、預金者は簡単に休眠預金の有無をウェブサイトで確認できるようになっている。それでも取引が15年以上なく、預金者と連絡が取れない休眠預金は毎年約520億円。この休眠預金は「リクレイムファンド(請求基金)」に移された後、「ビッグロッタリーファンド(BIG)」という財団に拠出される。そこからイングランド地域分は「ビッグソサエティキャピタル(BSC)」に拠出される。残りはイングランド以外の地域内で活動する団体への助成金となる。

BSCは12年、休眠預金の活用のために設立された。社会的事業や社会起業家支援への投融資を行う中間支援組織に、投資という形で資金を提供する。成果を重視し、投資対効果の指標を取り入れる。社会課題の解決とともに経済的持続性を追求する「社会的インパクト投資」の下支えとなっている。

社会福祉や環境領域などの事業収益型慈善団体や社会的事業者向けの投資ファンド、市民社会向けプロジェクトを集めるクラウドファンディングなど、多くの分野に充てられている。

13年12月までに、中間支援組織を通じ、介護施設に居住する高齢者向けプログラムを提供する団体や若年無業者の企業研修マッチング支援を行う団体など57の慈善団体や社会的企業に総額約1億4910万ポンド(約283億円)を提供している。

以上のような資金運用の概念を取り入れた社会的事業への支援策により、休眠預金を目減りさせずに社会的イノベーションが促進され、再投資による事業の拡大も期待される。

日本も含め、財政事情の厳しい国では全ての社会的課題を公的資金だけで解決するのは、もはや困難。日本では14年4月に「休眠預金活用推進議員連盟」が発足し、早ければ今通常国会に英国のモデルを参考とした関連法案が提出される予定だ。

それほど大きなリターンを望むことはできなくとも、住み心地良き社会環境という配当を得るならば、社会的インパクト投資を行う価値は十分にあるのではないだろうか。

(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。