東京ガス・大阪ガス・東邦ガスは、それぞれ東京・大阪・名古屋でガス供給をする大手都市ガス会社。現行法では、ガス事業には参入規制や料金規制がある。事業形態については、ガスの輸入など原料調達、流通を担う導管の運営、消費者に販売する小売の全てを、都市ガス会社が一手に行っている場合がほとんどだ。
経済産業省は今、これら大手3社のガス輸入基地・ガス導管・ガス小売の事業部門を分離分割したり、中小も含めた全ての都市ガスの参入規制や料金規制を全廃したりしようとしている。この制度変更は、“ガスシステム改革”と呼ばれる。
経産省によると、「天然ガスの魅力が活かされる形で利用が拡大するように、ガスが低廉かつ安定的に供給され、消費者に多様な選択肢が提示される」ためのガスシステム改革なのだそうだ。
ガスや電力などのエネルギー政策も、日本の場合は、欧米の政策を雛形にすることが頻繁にある。“ガスシステム改革”という今検討されている話も、欧州諸国や米国を参考にしている。
では、米国の先行例を見てみる。結論から言うと、米国のガス全面自由化は「成功していない先行例」だ。経産省が提示した【米国における家庭用自由化の状況】という資料を見ると、米国ガス市場では、ガス自由化の効果がほとんどないことがわかる。
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(http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/gas_system/pdf/013_04_00.pdfのp25より抜粋)
経産省は、この資料の解説として、「小売部門については各州が規制権限を有しており、自由化の度合いは州毎に対応が異なる。家庭用の小売参入全面自由化を実施しているのは、8州となっており、そのうち家庭用の切替率1%以上の州が4、1%未満の州が4である」と述べている。要するに、米国ガス市場は、自由化が進んでいる州が少ないだけでなく、自由化された州であっても自由化の効果はほとんど顕れていないのだ。
また、「小売参入を全面自由化した州の供給者変更率を見ると、ニューヨーク州では供給者変更率が上昇してきており、近年では20%程度(90万件弱)まで達している。一方でカリフォルニア州では供給者変更率がわずかに上がっているものの、1%程度(14万件弱)に留まっている」とも記している。これでは、小売全面自由化によっても、ガス市場は、50州のうちの1州を除き、消費者の選択は拡大し難い市場であることを示しているとしか解せない。
以上、米国の先行例をおおまかに見たが、米国ではガス全面自由化は進んでいないことがわかる。全面自由化を実施している州の状況では、他の州が全面自由化を実施しないのは当然のことだろう。全面自由化のメリットがないからだ。
米国のガス全面自由化という「成功していない先行例」を経産省自ら資料として提示しているにもかかわらず、経産省は日本でのガス全面自由化を強引に進めようとしている。これは実に不可解なことだ。 今後のガス市場を真剣に慮るならば、現在200社以上ある都市ガス会社の合従連衡を進めていくべきなのだ。都市ガス業界の問題は、まさに事業者数が多過ぎることにある。
大手都市ガス会社を分離分割しても、消費者利益にも国益にも決してならない。現行の料金規制などは引き続き厳格に実施していく一方で、都市ガス業界の集約合理化を進めることこそが、真のガスシステム改革である。それは、20年以上前からわかっていたことでもある。
(NPO法人社会保障経済研究所代表 石川 和男 Twitter@kazuo_ishikawa)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。 本稿は筆者の個人的な見解です。