円安進行は一旦ストップも、年内に大幅な円高には見込めず


8月中旬には1ドル101円台もつけていた米ドル対円相場は本稿執筆時点で109円にまで迫っている。これは米国の金利上昇観測によって金利の低い日本円を売却して、米ドルを購入する動きが加速したという解説がされることが多い。また、17日、18日のFOMC(連邦公開市場委員会、米国の金融政策を決定する重要な会合のこと)で市場に資金を供給する量的緩和という政策を縮小することを決定した。量的緩和の縮小は米ドルの市場流通量を減らすことになるので通貨としての米ドルの価値が他の通貨に比較して上昇したことも背景にあるだろう。

いわゆる専門家の中には年内に米ドルは1ドル110円も超えてくるという意見も聞かれるが、私は懐疑的に見ており、一旦円安進行は19日現在の水準近辺でとどまり、年内に更なる上昇は見込みにくいと見ている。かといって1ドル100円を割るような大幅な円高になるとは思っていない。来年は大きな事件・紛争がないことが前提となるが、円安トレンドは続き120円をつけることもあるかもしれない。

円安進行が一旦ストップすると考える理由は、実需筋のドル買いが一旦落ち着いたと見ているからだ。為替相場の参加者の中には先物取引を利用する投資家もいるが、彼らは外貨を買い建てたらどこかのタイミングで売り、外貨を売り建てたらどこかのタイミングで買うという反対売買をするのが一般的だ。一方、実需筋といわれる企業は海外との資金決済を目的に為替取引をするため、投資家のように反対売買をすることは考えにくい。私は今回の急激な円安進行は実需筋、とくに輸入企業が米ドルを買い、日本円を売るという取引を大規模に行ったことも背景にあると考えている。

輸入企業は海外から原材料を輸入する際に米ドルなどの外貨で支払決済をする必要があるが、米ドル高円安が進行すると日本円で換算した支払い金額が増えてコスト増になる。そこで先物為替予約取引など様々な方法で、将来支払う代金の為替レートを現時点で確定させる対策をとる。8月中旬以降の急激な円安進行で慌てた輸入企業がコスト増対策として直接的・間接的に米ドル買いを進め、その米ドル買いによってさらに米ドル高が進むということが起きたと考えている。ただ、為替相場にとって大イベントとなるFOMCが終了したことから、この動きは一旦収束するだろう。

年末にかけては輸出企業は海外の売上を日本円に換金する際に外貨を売って日本円を買うことになるため円高圧力となりうるが、火力発電に頼っている日本の現状ではエネルギーの輸入が増大しており、冬にかけてエネルギー輸入はさらに増えるだろう。輸入にともなう外貨買い、日本円売りに加え、日銀の追加緩和の可能性やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの機関投資家の外貨建て資産の購入圧力も加わり、大幅な円高にはなりにくいと考えられる。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。