TPP交渉参加で海外の農林水産品の輸入が増加することにより、食料品の価格が安くなるということで消費者にとっては良い事づくめのように見えるが、食の安全が確保されるのかどうかというのは重要なポイントだろう。例えば動物検疫所では動物の伝染病の侵入・まん延を防ぐために、牛、豚、鳥類などの動物と、それらの動物から作られる肉製品などの畜産物を対象に輸出入検査をしているし、植物防疫所では植物に有害な病害虫の侵入・まん延を防止するため、植物を対象に輸出入検査をしている。われわれは普段あまり意識していないが、安全な食品を食べられているのは検疫制度のおかげによるところが大きい。
世界の食品の安全基準どうなっているのかというと、WTO(世界貿易機構)にSPS協定(衛生と植物防疫のための措置に関する協定)という国際的な基本ルールがある。SPS 協定では、加盟国が独自の安全基準を定めることを認めているが、TPP交渉によってSPS措置について国際基準との調和を義務化されることになると、わが国独自の安全基準の行使が制約を受ける可能性がある。さらに原産地証明についてもわが国が採用していない完全自己証明制度(輸出者が自己申告する制度)が導入されることになると、輸出者にとってはこれまでの原産地証明の取得コスト負担が減ることになって喜ばしいことかもしれないが、例えば悪質な業者による虚偽の証明のせいで食中毒が頻繁に発生するかもしれない。事故の発生をどれだけ未然に防ぐことができるか制度の検討が必要だろう。
実はSPS協定には各国の規制を設けることができるという規定もある。ただし、規制は科学的根拠に基づいていなければならないとしている。こうした規制は、人や動植物の生命または健康を保護するために必要な範囲においてのみ適用されるべきとあり、貿易を妨げるものにしてはいけないというスタンスだ。
TPPへの参加によって貿易が促進されることは大いに結構だが、国民の生命や健康を損なう事態はさけなければならない。貿易の促進を妨げず、科学的根拠に基づいた安全確保ができる制度ができることを期待したい。(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。