理化学研究所は6月21日、脳情報通信融合研究センター、国立精神・神経医療研究センターとの共同研究で、他人の価値観を理解する脳の仕組みを科学的に解明したと発表した。
これまで、他人の心のプロセスを自分のプロセスとして再現する「シミュレーション説」と、他人が何にどう反応するかのパターンを学習する「行動パターン説」の2つの説が支持を得ていたが、科学的な検証が難しく、ヒトの脳でどう実現されるか解明されていなかった。
今回の研究では、脳の活動に関わる血流の動きを視覚化する「fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)」を利用して、30人以上の被験者が他人の価値観を予測する実験を行った。その結果、シミュレーション説と行動パターン説の2つの説を合わせた脳計算モデルが最も適切であることが判明した。
さらに、脳活動の分析から、シミュレーション学習が前頭葉の「自分の価値判断をする」領域と同じ領域で行われ、行動パターン学習は同じ前頭葉でも別の領域で行われることが分かった。これは、2つの学習の情報処理機能が脳に存在すること、2つの学習が異なる脳領域で処理されることを示している。
同研究所の脳科学総合研究センターの中原裕之氏は、「多様な価値観をもつ他人に応対できるのはこの2つの脳機能が補完しあうからでしょう」と語った。
この成果は、対人関係障害などの精神疾患の究明や、社会性を持たせたコンピューターやロボットへの応用が期待される。